地球生活

この物語はフィクションです。

ダンサーインザダークを観た。【ネタバレ感想】

 

言わずと知れたトラウマ級鬱映画と名高いダンサーインザダークをHuluで観ました。

https://www.hulu.jp/dancer-in-the-dark

 

めちゃめちゃネタバレあるので注意。

 

 


「鬱 胸糞 映画」と調べると賛否両論の不穏な感想とともに上位に出てくるので、「よーし今日は思いっきり悲しい気持ちになるぞ!」と意気込んで観た。でも思っていたよりしんどくはなかった。

胸糞だけを残した本当に救いのないラストにするなら、死刑の前にジーンの目の手術が失敗したことを聞いてしまう、もしくはその金をキャシーかジェフが持ち逃げして、結局ジーンはただ母親が冷酷な強盗殺人犯で、その息子として生きていかなければならず、さらに目も見えなくなり絶望して自殺、ぐらいの描写を入れてくるかなと思った。さすがにここまで行くとこの映画を何のために作ったのかわからないレベルなので、わたしの胸糞の妄想で終わってよかった。

 

人間は「生きがい」がないと生きていけないので、誰でも何かしらにその意味を見出そうとするものだけど、セルマにとってはいずれ目が見えなくなるという大きすぎる障害を抱えて生きていくためには、遺伝することが分かっていても産むしかなかった。ジーンがいなければセルマは生きてこれなかった。

セルマは自分のためにジーンを産み、自分のために手術費用を貯め、自分のために弁護士費用と引き換えにジーンに手術を受けさせた。ただ純粋な母から息子への愛だけじゃないと思う。

 

最後のキャシーの言葉だけではジーンの目が治ったのかはわからないけど、だからこそ、観客はこれをただの鬱映画じゃなく、少しの救いを見つけて映画を観終えることができる。想像や空想というのは救いだ。無限で自由だから。

苦しい現実の中で空想に落ちるミュージカルシーンも、あれがないとあまりにもセルマの生活には救いがなさすぎるから。セルマは母親がいることより目が見えることを優先したが、その後のジーンが幸せなのか、セルマがしたことがジーンにとっての正解だったのか、それは観客の想像の中で無限に、永遠に続いていく。

セルマが言っていた「最後から2曲目が終わったら映画館を出る、そしたら映画は永遠に続く」、それを文字通りに体感した。

 

「病気じゃなければ、もっとお金があれば、ビルとの約束なんか気にせず本当のことを裁判で話していれば」、そんなことを嘆いても何の意味もないが、正直1番最悪なのは自分は被害者だと何にも知らずにただ泣いているリンダ。すべての歯車が狂った元凶はおめーだ。(いろんな人の映画の感想を読むと、それぞれどんな理由で誰に1番腹が立つかが全然違って面白かった。)

でもセルマはそれがリンダを苦しめるとわかっていたから「ビルの秘密」を守った。死んだ人間との、しかも自分を裏切った人間との約束なんて守る義理などないし、死にたくないのなら全部話せばよかった。でも彼女はそうしなかった。それは彼女が純粋で、人を信じすぎて、愚かだったからではない。

 

登場人物が全員「自分のしたいようにしている」ように見えたからわたしはそこまで辛いと感じなかったのかもしれない。セルマ含めて全員自分勝手。その点でそこまで後味の悪さを感じなかった。

大抵「不幸でかわいそうな人」を描こうとすると、その不幸を受け入れられずに抗ってどうにか「幸せになろうとする」物語になりがちだけど、セルマは自分の境遇も環境も、ちゃんと心のどこかで受け入れているように見えたのがとてもよかった。不幸を嘆く物語にはもう飽き飽きしていた。

むしろすべてがクリアで全員幸せハッピーエンドなんて、それこそ空想でファンタジーで、「人間はみんな幸せでいなれけばならない」っていう無言の圧力を感じてしまってつまらない。こんな不幸は現実のどこにでも落ちているし、たまには隣の芝生が枯れているのを覗いてみるのもいいかもしれない。 

それぞれの人生の役割を受け入れてやり切っている感がして、観る人の立場によって感情移入できたり全然理解できなくて腹が立ったり、映画を観てここまで感情を揺さぶられるのが久しぶりで良い作品だった。

多分初めて観るタイミングによって、観る側のメンタル面によって大きく評価が別れる作品なんだろうなと思う。今のわたしには出会うべくしてこのタイミングで出会ったな、という素晴らしい縁でした。

 

 

おわり